CAREER COLUMN

CAREER COLUMN 003

人材マネジメントをぜひ経験してほしい。
そこで得たスキルは必ず大きな価値となる。

クライス&カンパニー顧問
及川卓也

多くの日本企業の場合、組織を構成する「人」の処遇については、人事部が主導して決定するケースが多いのではないでしょうか。しかし、こと技術者の組織に関しては、人事部がイニシアチブをとるのではなく、開発部門などの現場側が主体となって人事を行うべきだと私は考えます。特に採用に関しては尚更です。プロダクトやサービスが成功するか否かは、それを作る「人」にかかっています。そのもっとも重要なリソースである人材の採用を、ものづくりの当事者ではない部署に委ねてしまうのではなく、どのような人材が必要で、どのような採用手法を取るべきか、技術部門のマネージャーが考えて実行し、人事部はあくまでも後方部隊として支えていく形が望ましいと考えます。スタートアップの企業もそうあるべきで、技術部門の責任者が自ら先頭に立ってエンジニアの採用戦略を企画し、実際に面談を行って採用の是非を判断することが重要だと思います。

それは人材の採用のみならず、育成や評価についても同様です。たとえば新卒で採用した人材は通常、人事部が主催する新入社員研修を受講します。なかには3カ月から半年もの時間をかけて社会人としての心得やビジネスマナー、PCスキルを叩きこむ研修を実施する企業もあるようですが、全てが本当に開発系の人材にとって価値があるのか疑わしい場合もあります。学生時代に開発経験があって1カ月も研修を行えば即戦力のエンジニアになる人材にそれだけの時間を費やすのはもったいない。それこそ技術部門のマネージャーが、採用した人材に対してどんな研修をどの程度実施すべきかの要否を考え、現場で判断すべきです。このように優れたプロダクトやサービスを創り出せる組織にするためには、技術部門が人事部の機能を備えて自らで主導できる体制をとるべきと考えます。

ですからみなさんも、機会があればぜひ人材マネジメントを経験してほしいと思っています。そこで得たスキルは将来、必ず役に立つはず。そして人材マネジメントのような「人」と関わる仕事は、ものづくりに劣らない面白さがあると私は実感しています。

いま私はコンサルタントとして技術者の方々にキャリアのアドバイスをする仕事も担っていますが、そこで支援できるのは多くても月に数十人。一方、かつて私がGoogleで携わっていたChromeの開発は、10億単位の数のユーザーが対象です。これに比べるとコンサルタントは影響を与えられる範囲が限定的に思えますが、Chromeの開発も実はそこに実装された機能を使ってくれるWebサイトがなければユーザーに届きません。Web開発者というパートナーとの協業で多くのユーザーに機能を提供しているのです。これとコンサルタントの仕事は同じです。アドバイスをした人や組織はそんなには多くないかもしれませんが、その先には私からのアドバイスを活かした彼らが成し遂げる事業やサービスの利用者が多く存在するのです。しかも、コンサルタントは、目の前にいる人からポジティブなフィードバックが直接返ってくる。これは、コンシューマー製品の開発をしていたときにはなかなか体験することが出来なかったことです。私のアドバイスが奏功して有力企業への転職に成功し、評価と感謝の言葉をいただき、そこで活躍されているのを目の当たりにすると私自身も大いに高揚します。

私が関わった優秀な技術者の方々が各所で機会を得て、新しいサービスなどを開発すれば、世の中に大きな影響を与えることになる。それは自らが開発する仕事と同等、いやそれ以上の醍醐味があると私は感じています。将来、AIが人間の仕事を奪うなどと言われていますが、人材マネジメントは最後まで人間に期待される領域だと思っています。その人が気づいていない能力や可能性を引き出し、それを発揮できる場を提供していくというのは、おそらくAIが補佐することはあったとしても、完全に置き換わるには難しい。だからこそ、これからのエンジニアは人材マネジメントのスキルを意識して身につけておくべきだと、私はそう考えています。