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INTERVIEW

INTERVIEW 005

2020 Jan 26

5つの顔を持つのがラクスルのプロダクトマネージャー。
あらゆるケイパビリティを発揮し、マーケット課題を発見して解決する。

水島氏(ラクスル)のプロダクトマネージャーインタビュー

PROFILE

ラクスル株式会社 執行役員CPO 水島 壮太 氏

学生時代はベンチャー企業の契約社員として、フィーチャーフォン上で動くJavaアプリの開発に没頭。新卒で日本IBMに入社し、Javaアーキテクトとして金融系システム開発などでキャリアを積んだ後、DeNAに転職。DeNAでは、Mobageオープンプラットフォームのサードパーティ向けグローバル技術コンサルティング部門の立ち上げを行い、サードパーティらに必要なものを自らの意思決定で作りたいという思いから、開発部門へ。Mobageに限らず社内外すべてのサービスで共通に利用されるマイクロサービスを開発、展開した実績を持つ。2015年4月より株式会社ペロリに出向し、MERYのアプリの立ち上げおよびメディアからサービスへ飛躍するための開発をリード。2017年10月よりラクスル株式会社に入社。現在は執行役員CPOを務め、ラクスル事業のプロダクト開発を指揮している。

10名以上のPdMを擁し、スモールなチームで戦っていく。

及川

まずは御社が手がける事業について教えていただけますか。

水島

いま当社が注力している事業は大きく3つあります。
 
ひとつは、印刷や広告のシェアリングプラットフォーム「ラクスル」を運営する印刷事業。印刷物の制作のみならず、新聞折込やポスティングなどの集客支援サービスまでワンストップで提供しています。
 
そして二つ目は物流のシェアリングプラットフォーム「ハコベル」の物流事業で、荷主と運送会社をマッチングさせることで社会問題になっている物流クライシスの解決に貢献しています。
 
さらに最近、新たに立ち上げたのがテレビCM事業。「テレビCMの民主化」をビジョンに掲げ、これまで不透明だったテレビCM枠の価格を見える化し、誰でも容易にCM広告を打てるプラットフォームの構築やテレビCMの制作・放映を行っています。

及川

全体で何名ほどのプロダクトマネージャー(PdM)がいらっしゃるのでしょう。

水島

いま私が率いる印刷事業で8名、物流事業で3名 テレビCM事業で1名のPdMがいます。印刷事業になぜPdMが8人いるのかと言えば、それは開発チームが8つ存在しているから。当社の柱である印刷事業はシステムが大きく、サービスも多角化しています。
 
そこで仮想的にプロダクトを分割し、それぞれミッションを掲げてスモールなチームで戦えるような体制にしています。ひとつのチームが、PdMとエンジニア、デザイナー合わせて7~8人で組まれており、「スクラム」の手法に則って開発を進めています。

及川

ラクスル事業の8つのチームは、それぞれどのようなミッションを担っているのですか。

水島

8チーム中、3つのチームは横串で「ユーザー体験」で分けています。
 
ひとつは、印刷物をオンラインでデザインするサービスに特化したチームで、ミッションはユーザーが満足のいくデザインをスピーディーに制作できる仕組みを作ること。
 
二つ目は、DTPの印刷データをチェックするシステムを手がけるチームで、それまで人手を要していたチェック作業を自動化することがミッションです。
 
そして三つ目がアナリティクスのチーム。こちらのミッションはユーザーの行動を分析し、ラクスルのサービスをより利用していただくマーケティングを図っていくことです。
 
残りの5チームは、売上や粗利の責任を持つビジネスユニットと一緒に動いており、それぞれ新たな商材を開発したり、その商材に適した最高のEC体験を実現していくことがミッションです。
 
たとえば最近、ノベルティなどのモノに対する印刷サービスも起ち上げ、それに伴って新たなチームが発足しました。通常のチラシや名刺などの紙の印刷物と違って、立体的なモノへの印刷ですからWeb上で3Dのようにプレビューできる体験が必要であり、そうしたシステムの開発などを進めています。
 
また、年賀状やダイレクトメールなどの宛名リストなどを効率的に管理するCRMシステムを手がけるチームもあります。印刷とひとことで言っても、実は奥が深くていろいろなシーンやニーズがあり、それぞれユーザー体験も異なる。
 
まだまだ我々が解決できるマーケット課題はたくさんあり、それに対応して新たなユーザー体験を提供していくチームをさらに増やしていきたいと考えています。

スクラムをベースに、実に多様な役割を担うラクスルのPdM。

及川

では、ラクスルのPdMの方々は日々現場で何をやっていらっしゃるのでしょうか。

水島

誤解を恐れずにいうと、現状、ラクスルのPdMは5つの顔を持っています。
 
先ほどスクラムで開発を進めているとお話ししましたが、マーケット課題を設定してソリューションを考える「プロダクトオーナー」としての役割も担えば、チームの生産性を上げる「スクラムマスター」としての役割も担う。
 
また、うちのPdMはみなUX志向が強く、自分でリサーチしたりデザインしたがるんですね。だから「UXデザイナー」としても機能していますし、プロダクトのクオリティもチェックする「QA」にも関わっています。
 
そして社内のステークホルダーとの調整業務を行う「プロダクト責任者」も担っている。CFOや事業責任者に対して、プロダクトがどう収益やサービスの向上に寄与するのかを説明したり、あるいはプロダクトをリリースする前後のカスタマーサポート部門との調整も重要な業務です。

及川

スクラムの教科書的には「プロダクトオーナー」と「スクラムマスター」は別の人が務めることになっていますが、兼任されているのは何か意図があるのでしょうか。

水島

正直にお話しすると、当社の場合、まだスクラムの習熟度が低くて「なんちゃってスクラム」なんですね。だからPdMの負荷が大きいのも実情。
 
そもそもPdMというのは、何でもできるスーパーマンになりたい人が多いんですね(笑)。でもあまりにPdMに依存してしまうと、もしその人間がいなくなると機能しなくなる。これから経験を重ねてチームが自立してくれば、役割を分けることになると思いますが……。

及川

スクラムはあくまでも開発手法のひとつであって、スクラムをきれいに回すことがゴールではない。御社のように「なんちゃって」でも、チームがきちんと機能して課題解決を果たしているのであれば問題ないのではないでしょうか。

水島

私も現時点ではそう思っています。ただ程度があると思っていて、現状で我々のスクラムの習熟度は辛口に言うと10%ぐらいです。
 
それをもう少しアップさせれば、チームの生産性やマーケット課題を解決するスピードも上がり、顧客価値に還元できるサイクルが早くなるはず。そのレベルをいま模索しているところであり、何が何でもスクラムを100%実践しようという考えではありません。

及川

スクラム開発の場合、最初の課題設定がきわめて重要です。御社の場合、誰がどのように課題を設定していらっしゃるのでしょうか。PdM自身が起点となるケースもあるのですか?

水島

いろいろな起点があります。事業開発部門がマーケット課題を探して提示してくることもあれば、ユーザーヒアリングで意図せず見えた課題、チーム内で議論して課題を設定するケースもあります。
 
また、社内のエンジニアのハッカソンでアイデアが出てくることもある。PdMのもとには各所から「この課題を解決してほしい」という要望が次々と寄せられます。チームのROI(Return on Investment)を最大化させるために、どの課題を優先して解決すべきかを考えて筋道を立てていくことも、PdMの重要な任務のひとつですね。

かつてのSIerでの経験が、いまのポジションでも活きている。

及川

課題が設定された後、次の設計実装フェーズではPdMはどのような役割を担うのですか。

水島

大きめの開発の設計実装フェーズに入ると、ファシリテーションや予算の管理、ステークホルダーとのコミュニケーションなどが主な役割になりますが、私はPdMでありながらデザイナーと一緒にUXデザインを考えたり、リードクラスのエンジニアとともにアーキテクチャの設計まで手がけています。
 
PdMになっても自分でプレイしたいという人も多いと思いますが、私もそのタイプ。当社はPdMの立場でもそれまで培ってきたケイパビリティをどんどん発揮していい環境です。

及川

PdMがアーキテクチャまで決めることに弊害はありませんか?

水島

確かに、PdMが何でも決めて、チームに押しつけるのは良くないと思います。しかし、あまり議論の余地がないものに関しては、こちらがある程度データベース設計を決めたりカスタマージャーニーを定義したほうが、開発がスムーズに立ち上がって早く仮説検証に辿りつけるケースもあります。
 
特に当社はオフショアを活用しているので、こうしたアプローチのほうが効率的なケースも存在します。

及川

PdMを務めるにあたって、水島さんがかつて在籍されていたIBMでの経験が活きていることもたくさんありそうですね。

水島

ええ。アーキテクチャ設計はまさにそうですね。IBM時代にオフショア開発を何度か経験し、そこでコアとなるアーキテクチャを早期に確定させて効率や品質を担保する手法を学びました。
 
またSIはデリバリーがメインなので、決められたものを決められたスケジュール通りに決められたコストで作り上げる力は養われましたし、それはいまも活きていると思います。

及川

開発を終えてリリースした後、サービスをグロースさせるフェーズに入ると、PdMはどのような役割を負うのでしょうか。

水島

マーケット課題を解決するためのプロダクトを構想し、チームの生産性を上げ、あらゆる手段を講じてそれを作り上げていくことはもちろん、ローンチ後に当初立てた仮説が正しいかどうかを検証し、次々と改善策を打っていくこともPdMの重要な仕事です。
 
KPIを設定して実績を評価し、現れた数字からまた新たな仮説を立てて改善のサイクルを回していく。と同時に、最初のローンチはMVP(Minimum Viable Product)でかなり機能を抑えているので、プロダクトの価値をさらに高めていくための施策も繰り広げていかなければならない。むしろローンチした後のほうがPdMの真価が問われますね。

及川

昨今、御社の事業は印刷以外にも大きく拡がっています。将来に向けてもさまざまなビジネスの可能性があると思いますが、どこまでそれを拡げていくのか、何か基準を設けていらっしゃるのでしょうか。

水島

我々は「飛び地」と「染み出し」というアプローチで事業を拡大しています。「飛び地」とは、当社が築き上げたビジネスモデルやノウハウを新たな産業に展開していくことで、物流事業がまさにそうですね。
 
「染み出し」は、既存の顧客基盤や事業とのシナジーが見込めるケースで、印刷事業から派生したテレビCM事業がそうです。現状では印刷事業のウエイトが大きいですが、今後も「飛び地」と「染み出し」を果敢に探っていきたい。
 
新事業の選定と創出は経営側の課題ですが、PdM発信で戦略を立てて事業を提案することも十分可能です。特にPdMはプロダクトを創るためのリソースを操れる立場なので、自分が描いたビジョンを自分で形にできる。それは当社ならではの醍醐味だと思いますね。

「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」を追求できる場。

及川

御社の場合、PdMが担う役割はきわめて多様ですが、根底に求められる素養はどのようなものなのでしょうか。

水島

PdMが絶対に犯してはいけないのは、チームを崩壊させることです。いかに課題の捉え方が優れていても、チームをモチベートできずにメンバーの離職を招いてしまっては目的に到達せず、結果として会社にも多大な損失を与えることになる。
 
ですから、チームの中で信頼を得られる存在であることがとても大切です。経営側もエンジニアを離脱させるようなPdMは評価しませんし、むしろエンジニアを増やしてプロダクト開発を加速させろと。

及川

それはラクスルが良い会社である証左だと思います。会社によっては、経営がエンジニアの価値がわからず、目の前の収益を優先して「エンジニアがいなければ外部に委託すればいい」という考え方も多い。でも、それでは真の競争力は生まれません。

水島

おっしゃる通りで、当社は開発の内製化をしており、エンジニアが非連続でイノベーションを生み出していく体制づくりに投資しています。

及川

ちなみに御社の場合、PdMはどこまで売上の責任を負うのでしょうか。

水島

ラクスル事業では、PdMに損益責任を直接は背負わせていません。というのも、ラクスルはECであり、プロダクトの開発が短期の売上に直結しないんですね。だからといって、ただ優れたECシステムを作れば責任を果たせるかというと、けっしてそうではない。マーケットの課題を発見し、2~3年後の事業成長や事業生産性向上に繋がるようなプロダクトをいち早く作り上げていく。
 
またUXを磨いて、いままでできなかったことをできるようにして、既存ユーザーのリピートや新規ユーザーの獲得を図っていく。そうした仕組みを作ることにコミットしていくことが当社のPdMには求められます。

及川

御社は今後もPdMを必要とされているとのことですが、新たな人材を採用される時、水島さんは面接の場で何を確認し、何を期待していらっしゃるのでしょうか。

水島

大きく3つあります。
 
ひとつはシステムの仕組みを理解し、エンジニアやデザイナーとどれだけコミュニケーションを取れるかということ。
 
二つ目は、データを見る力があるかどうか。当社ではPdMがローンチ後に指標を設けてプロダクトを改善する道筋を立てていくので、自分でSQLを書いてデータを収集分析していきます。SQLは地頭の良い方であればすぐにマスターできると思いますので、特に必須のスキルではありません。
 
そして三つ目は、トレードオフを解決できる力。プロダクト開発を進めていくと必ずコリジョンが起こりますが、ステークホルダーの意見を調整しながらそれを克服し、あるべき方向へ推進できる力を期待しています。

及川

いま御社で活躍されているPdMの方々は、以前どのようなご経歴なのでしょうか。

水島

SIerでプロジェクトマネージャーを務めていた者もいれば、前職でWebディレクターをしていた人、またリアルプロダクトのデザイナー出身の人もいます。

及川

多様な人材が集っているのですね。水島さんご自身もこれまでのご経歴を拝見すると、キャリアの振り幅が広いようにお見受けします。

水島

私は個人的に、ある領域に特化しすぎることをリスクに感じるタイプなんですね。大企業を経験したらベンチャーも経験してみたい。BtoBを手がけるとBtoCにも関わってみたい。究極にあるものを見極めて、その中からいいとこ取りをしたい。
 
ですから、私のような志向の人間は大いに歓迎しますし、たとえばゲームとかエンタテイメントとか、異質な領域を経験された方にぜひ新しいマインドを持ち込んでほしい。よく「BtoCはエモーショナルでBtoBはドライ」などと言われますが、実はそうでもなくて、toBの世界でもユーザーは感情で動いたりする。取り組んでみると意外な発見がたくさんあり、本当に面白いフィールドです。
 
我々は、急速に進化するテクノロジーに日本が取り残されているような危機感を抱いていて、そこに新しい仕組みを創ることで生産性を向上させ、旧態依然とした産業を救っていきたいと考えています。それがまさに「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」という我々のビジョンであり、そこに共感してくださる方にぜひ参加していただきたいですね。

※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。

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