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INTERVIEW

INTERVIEW 009

2020 Aug 18

プロダクトマネージャーは「何者でもない」という感覚が大切。あらゆるスキルやノウハウを動員し、オンラインデーティングを社会のインフラにする。

金田悠希氏(エウレカ)のプロダクトマネージャーインタビュー

PROFILE

株式会社エウレカ VP of Product, Pairs 金田 悠希 氏

2012年に早稲田大学卒業後、新卒でモバイルファクトリーに入社。スマートフォンゲームのプロダクトの立ち上げフェーズをいくつか経験し、そのなかで一つのプロダクトを任され、事業責任者としてサービスの成長に携わった経験を持つ。2016年4月にエウレカに転職し、主力サービスであるマッチングアプリのPairs(ペアーズ)のプロダクトマネジメントを担当。2018年10月にVP of Product, Pairsに就任し、現在は主にPairsのプロダクトの戦略策定に関わっている。

プロダクトの成功に最も責任を持つことが、PairsのPdMのミッション。

及川

まずはエウレカという企業についてご紹介いただけますか。

金田

エウレカは2008年に創業しました。当初は広告代理店などさまざまな事業を手がけていましたが、2012年にマッチングアプリのPairs(ペアーズ)を日本で起ち上げました。
 
現在、日本・台湾・韓国でサービスを展開し、累計会員数は1000万人を超えています。さらに2019年7月にPairsエンゲージを新たにスタートし、これらの2つのプロダクトを主軸に「かけがえのない人との出会いを生み出し、日本、アジアにデーティングサービス文化を定着させる。」というビジョンを掲げて事業を繰り広げています。

及川

金田さんはPairsのプロダクト責任者を務められているとのことですが、エウレカではプロダクトマネージャー(PdM)をどのように定義されているのでしょうか。

金田

エウレカのPdMの最大のミッションは、プロダクトの成功に最も責任を持つことだと捉えています。「成功に責任を持つ」というと漠然としていますが、私はプロダクトの方向性を正しく示し、そこに至る道筋を正しく定めるということと理解しています。
 
社内のPdMに対しては、プロダクトバックログを達成すべきテーマに向かって正しく優先順位をつけることにフォーカスしてほしいということに加えて、エグゼキューションにもしっかり目を光らせ、デザイナーやエンジニアとのコミュニケーションも日々気を配ってほしいといつも伝えています。

及川

現在、金田さんの下にPdMは何名いらっしゃるのですか。

金田

Pairsを担当しているのが4名。Pairsエンゲージはまだ起ち上がったばかりのサービスということもあって、事業責任者と兼任で1名で運営しています。

及川

エウレカのPdMのみなさんは、どんなバックグラウンドをお持ちなのでしょうか。

金田

エンジニア出身のPdMはいなくて、みなビジネスサイド出身の人間です。ビジネスのベクトルと、テクノロジーとクリエイティブのベクトルと合わせていく役割を担っている感じです。エウレカでは、デザイナーやエンジニアもビジネス目線を持った人材を採用していますので、PdMはそれを束ねられるようにビジネス寄りのバックグラウンドを持つ傾向があります。

及川

日本では御社のように、事業開発などの経験があるビジネスサイドの人間がPdMを務める傾向が強いのですが、一方で同じようなビジネスのバックグラウンドを持つPdMを目指す方から、テクニカルな部分をどこまで理解すべきかという相談をよく受けます。PdMを担う上でエンジニアとどこまで会話できればいいのか、お考えを聞かせていただけますか。

金田

難しい質問ですね。まず前提として僕自身、コード書くのは好きなんです。業務で経験したことはありませんが、趣味でAndroidのアプリを作ってみようとJavaでプログラミングしたことがありますし、PerlやPython、Rubyなどの言語を触ったこともあります。型通りでもいいので、自分で一度コードを書いてみると、アプリを動かすのはこういうことなんだというのが理解できる。それを体感しておくことは、ビジネスサイド出身の人間にも必要だと思いますね。

及川

プロダクトの開発においてビジネス側とテクノロジー側は対立しがちなのですが、エンジニアからすると、PdMがコードを書けるというだけである種の信頼が生まれます。

金田

テクノロジー側とビジネス側が衝突するのは、プロダクトの価値を上げることと、それを届けるためのコストを抑えることのトレードオフに起因することが多いと思うんですね。
 
トレードオフが生じた時、誰にも伝わる共通言語でテクノロジーがもたらす価値とビジネスから見た価値を説き、みんなが理解できる状態にまでもっていくコミュニケーション能力が必要なんじゃないかと。
 
僕も最初できませんでしたが、経験を重ねていく中で技術負債が生まれやすいケースをたくさん知り、また、専門的な技術用語に出くわしても翻訳することをあきらめない姿勢を持ち続けたことで、ここまで成長できたと思っています。

すでにキャズムを超え、科学的にユーザーの課題を理解するフェーズへ。

及川

さきほどPairsは4人のPdMで運営されているとのお話がありましたが、それぞれどのように役割分担されているのでしょうか。

金田

チームでプロダクトマネジメントする体制を確立することが、この2~3年の私の大きなチャレンジでした。まだ道半ばですが、現状では「ビジネスを創る」役割と「UXを創る」役割に分け、それぞれのチームにPdMを2名ずつ配置しています。
 
さらにそのチームのなかで、サービスを届けるために「何をやるべきか」、すなわち“What to Deliver”を考えるPdMと、「いかにやるべきか」という“How to Deliver”に注力するPdMに担当を分けています。問題が発生した時は、内容によってどのPdMと協議すべきか、コミュニケーションを使い分けています。

及川

プロダクトを成功させるためには、PdMがみな同じ方向に向かわなければなりません。全員のベクトルを合わせるために、どんな工夫をされていますか。

金田

それは本当に難しい問題で、大きな枠でPairsがどこで向かうべきかを常に考え、会話量を増やしてPdMたちに伝え続けています。
 
ただ会話するだけではぶれやすいので、Pairsがアタックしなければならない課題を可視化し、それをクリアするためのKPIを数値化もしくは定性目標化して、それぞれのチームで最大化するプロダクトのバックログを作ってほしいとリクエストしています。課題からバックログへの繋がりを構造化することは意識的にやっていますね。

及川

Pairsのプロダクトマネジメントは、ビジネスを創る役割とUXを創る役割に分け、さらに“What”と“How”に分けているとのことですが、その境界を設定するのは非常に難しいように思います。ビジネス側とUX側は対立構造を生みやすいですし、“What”と“How”に分けると、“How”を担う側はバックログ管理やスケジュール管理に終始しかねない。金田さんも悩まれたのではないでしょうか。

金田

確かにとても悩みましたし、いまもまだ正解を考えている最中です。チームによるプロダクトマネジメントのあり方は、ダブルダイヤモンドのフレームワークを使って社内に説明していますが、それをベースに越境していくのが理想だと考えています。
 
そもそもエウレカのPdMのミッションは先ほど申したように、成功に対してすべて責任を持つことであり、それは越境志向がないと果たせない。そのことは絶えず社内に伝えています。

及川

ダブルダイヤモンドの他にも、プロダクトマネジメントにおいて御社が標準として使っているプロセスやフレームワークはありますか。

金田

リーンキャンバスはかつて使用していました。カスタマージャーニーマップも一時期しっかり書いていましたが、いろいろと手がけて残ったのがダブルダイヤモンドですね。あとUXリサーチには非常に力を入れていて、バリュープロポジションキャンバスはいまでも使っています。

及川

いま言及されたUXリサーチについておうかがいします。UXリサーチの本質は、ユーザーを理解してプロダクトを設計していくことですが、エウレカの社員はまだ若い方が多いので、自分がユーザーとしてPairsのサービスを捉えられると思います。
 
しかし今後、結婚してユーザーから外れていく方が増えていくと、自分ゴトとしてプロダクトを見る視点が失われていくようにも感じます。その点についてはどうお考えですか。

金田

おっしゃる通り、結婚するメンバーが社内でどんどん増え、Pairsの対象ユーザーではなくなっています。
 
しかし、自らユーザー感覚をもってお客様を正しく理解するのは、もはや難しい規模になっていると捉えています。すでにPairsはキャズムを超えた段階にあり、お客様層も多様化しています。
 
自分の想像が及ばない、いろんなタイプのユーザーの方々をきちんとファイリングして理解する必要があり、リサーチを通じて科学的にお客様の課題の解像度を上げていくフェーズに入っていく。そうした考えのもと、いまリサーチを非常に強化しています。

及川

いまのお話はとても説得力がありますね。キャズムを超えたらアーリーアダプター以外が増えていくので、自分以外の視点でユーザーを理解しなければならない。他社においても参考にできる話だと思います。

リサーチを重視し、オープンディスカッションで解決策を導いていく。

及川

Pairsのプロダクトの開発は、実際にどのような流れで進められているのでしょうか。どんな課題があり、それをどう解決しているのか。そこにPdMがどのように関わり、どのようにリードしているのか、具体的な例を挙げて教えていただけますか。

金田

UXのプロジェクトを例にお話しします。
 
Pairsは登録して自分のプロフィールを作成した後、気になる異性の方に「いいね」を送り、相手も自分のことを気に入ってくれたらマッチングしてコミュニケーションできるようになるサービスですが、一部のユーザーの方から「なかなかマッチングできない」という声が寄せられていて、その課題解決にいま取り組んでいます。
 
かつてまだサービスの規模が小さかった頃は、目の前の数値を見て想定できる問題点を改善していくなどしていたのですが、いまはスケールしてお客様が多様化しているので、数値だけでは何が課題なのか掴みづらくなってきた。
 
そこで定性的に踏み込んで解像度を上げようと、ユーザーの方々にアンケートを取ったんです。すると、プロフィール写真の選定が拙いとか、「いいね」とともに相手に送るメッセージが雑だとか、これまで見えなかった課題がいくつか浮き彫りになってきました。
 
さらに対象ユーザーをリクルーティングしてインタビューを行ったり、こうした課題の深掘りをPdMがリードして進めています。

及川

課題をクリアにした後、解決するためにPdMはどのような動きを取るのですか。

金田

課題を解決するアイデアが必要ですが、それはPdMだけが担うのではなく、デザイナーやエンジニアにも方針を示してアイデアを募っています。彼らとのディスカッションの中からPdMが解決策をピックアップしていく感じですね。そこからは、効きそうな順にすぐに作ってリリースしてPDCAを回すこともあれば、もう一度リサーチを行ってさらに精度を高めていくこともあります。

及川

実装フェーズではPdMはどんな役割を果たすのでしょうか。

金田

Pairsはデザイナーがプロダクト開発の中心なんですね。
 
デザイナーが最初にワイヤーやテキストのラフで作り、そのあとはエンジニアも交えてチームで議論し、たとえばバックエンドはどういうAPIを介せばフロント側が実装しやすいかとか、フロントがどのようなUIで表現するかなどを詰めていく。その一連のファシリテーションをPdMが担っています。
 
アイデアフェーズも実装フェーズも、特定の誰が仕様を決め切るのではなく、オープンディスカッションを挟んで一回膨らませた上で、最終的にPdMがまとめるという形をとることが多いですね。

及川

そうした活躍が期待できるPdMを、御社はどのように育成されているのでしょうか。

金田

先ほどPairsのプロダクトマネジメントは“What to Deliver”と“How to Deliver”に役割が分かれているとお話ししましたが、初めてPdMに就く人は敢えて“How”に近い領域からまず体験してもらうように意識的にマネジメントしています。
 
私自身のこれまでのキャリアから、「自分が考えたプロダクトを自分で形にできない人になってほしくない」という思想があって、実際にお客様にサービスを届ける上で、どんなリスクがあるのかを知った上でバックログを考えられるようになってほしいと考えています。
 
ですからまずはデリバリーに近いところに携わり、デザイナーやエンジニアとしっかりコミュニケーションを取ることを経験し、プロダクトを作ることをリアルに理解した後、“What”の領域にキャリアを移していくような育成を心がけています。

PdMは「良い子」過ぎてはいけない。ロックなほうが面白いプロダクトを創れる。

及川

日本ではまだまだPdMとしてのキャリアを持つ人が少ないので、PdMを増強しようとすると、まだそのポジションにない人を採用、登用するケースが多いと思います。これからPdMを志す人は、どんなマインドセットを持つべきだとお考えですか。

金田

PdMは「良い子」過ぎてもダメだと思います。
 
エンジニアやリーガル・ファイナンス担当などの事業関係者の声を何でも受け入れて、全員に対して良い顔をするスタンスだとおそらく成功しない。周りの意見を聞きつつも、ユーザーのことを考え抜いて「この方向に進むのがベストだ」と信じて答えを出し、たとえ反対されてもそれを押し通していくようなパワーが欲しい。それぐらいロックな精神を持っていないと面白いプロダクトは生まれない(笑)。センスに依存する部分もありますが、それを常に磨いているような人はやはり魅力的なプロダクトを作りますね。
 
あと、本気でPdMを目指すのではあれば、デザイナーにせよエンジニアにせよ、それまでのキャリアに固執しないほうがいいですね。デザイナーやエンジニアに未練を持ったまま務めないほうがいい。
 
私は「PdMは何者でもない」という感覚が大切だと思っていて、好き嫌いせず何でも吸収する姿勢が重要。以前のキャリアに戻れるかもという考え方はアンインストールしないと、PdMとして成功するのは難しいと思います。

及川

「PdMは何者でもない」という金田さんの指摘は、まさにその通りですね。では、その何者でもないPdMはどのようにキャリアを伸ばしていけばよいのでしょう? 金田さんがこれまで直面してきた壁を教えていただけますか。

金田

ビジネスとプロダクトの視点を合わせることが、やはり大きな壁ですね。ビジネスとUXはどうしてもトレードオフが生じるので、短期的に収益を上げるためにはUXを犠牲にしなければならない場面もあります。
 
いまはビジネス拡大のために収益を優先し、中長期的にプロダクトに磨いてUXを取り返そうという判断が求められる時もある。そのバランスを保つのが本当に難しい。
 
私自身、かつてプロダクトのUXにこだわりすぎてビジネスチャンスを逃したこともありましたし、逆にビジネスを優先しすぎてUXが疎かになってしまっても、お客様に長く愛されない。そのバランスは常日頃から考え続けています。
 
あともうひとつの大きな壁は、組織づくりだと痛感しています。チームでプロダクトマネジメントするチャレンジもそうですし、これから事業をさらにスケールさせるためにも、組織の力でプロダクトを良くするスキルやノウハウを身につけなければと強く思っています。

及川

いまの金田さんのお話は、PdMに求められることをすべて言語化していただいたように思います。それでは最後に、御社でPdMを担う魅力をアピールしていただけますか。

金田

私はBtoCのプロダクトが大好きで、「お客様の手のひらに届けられるサービスでインフラを創りたい」という夢を抱いていますが、エウレカは日本でそれを果たせる数少ない場。Pairsは社会のインフラとして育つべきサービスだと思っています。
 
また、エウレカはプロダクト中心のカルチャーで、CxO3名もすべてプロダクト開発の経験者。戦略もプロダクトが中心であり、プロダクトがビジネスをリードしていくのでPdMにはたいへん居心地のいい企業です。
 
さらにグローバルにも進出しており、我々のパートナーである世界的なオンラインデーティングサービス企業のMatch Groupの人間と情報交換する機会も多い。世界のプロダクトに関してディスカッションできる貴重な経験も得られます。
 
まだまだ世間ではオンラインデーティング、すなわちネット上で異性と知り合うことに対してネガティブな見方もありますが、インターネットの力を使うことで将来のパートナーと出会う機会が増えるのは社会にとって非常に価値のあること。いままでの常識を覆す可能性を秘めたプロダクトであり、そこに挑戦できるのは本当に面白いと思いますね。

※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。

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