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INTERVIEW

INTERVIEW 011

2020 Oct 02

創るのは、日本の労働人口全体を対象としたプロダクト。
社員全員がプロダクト視点を持つ、稀有なカルチャーが醸成された環境で、事業や組織をスケールさせる醍醐味を堪能できる。

安達 隆氏(SmartHR)のプロダクトマネージャーインタビュー

PROFILE

株式会社SmartHR 執行役員 VP of Product 安達 隆 氏

チームラボにて受託開発のディレクターを経験後、起業。EC事業者向けのSaaS事業を立ち上げ、KDDIグループに売却。フリーランス期間を経てメルカリに入社し、顧客対応や違反検知などの業務システム開発を担当。2019年よりSmartHRに参画し、現在プロダクトマネジメントの責任者を務める。

BtoBtoEのプロダクトを創ることで新たな価値を生み出していく。

及川

まずは御社が提供しているサービスと、プロダクトマネージャー(PdM)がそのサービスの開発においてどのような役割を担っているのか教えていただけますか。

安達

我々は、社名でもある「SmartHR」という人事労務関係のペーパーワークをオンライン化するクラウドサービスを提供しています。そのなかで当社のPdMは、まず顧客の課題を特定してどんな機能が求められているのかリサーチし、具体的にサービスに落とし込むための要件定義を行い、開発と一緒にプロダクトを作り上げていく役割を担っています。
 
プロダクトは大きく分けて2種類あって、ひとつはSmartHRの「本体」と社内では呼んでいるのですが、人事労務を効率化するツール。具体的には、人事データベースを構築して社会保険の手続きなどがクラウド上でできるプロダクトです。
 
それともうひとつ、我々は「プラスアプリ」と呼んでいますが、この人事データベースを活用して、たとえば情報を可視化するBIツールや雇用契約を結ぶためのミニアプリなどをいくつか提供しており、それぞれ独立したプロダクトとして開発しています。

及川

いまお話のあった課題のリサーチというのは、どのように行っているのでしょうか。

安達

SmartHR本体は、すでにマーケットにフィットしているプロダクトなので、顧客からの要望がセールスやCS(カスタマーサクセス)などを通じてどんどん寄せられるんですね。それを集約して課題をリサーチしています。
 
そして事業戦略上、たとえば顧客層を拡げるために大企業のユーザーも開拓したいというテーマがあれば、現場から集まってくる要望の中で優先すべき課題を、経営レベルも含めて各部署の代表が集まって合議で決定。その状態でPdMがアサインされ、顧客にヒアリングして現場に即した形で課題をさらに深掘りしていくというスタイルです。

及川

人事労務に関することは、サービスを拡げようと思えばいくらでも拡げられる領域だと思います。SmartHRとしてそこに何か明確な指針をお持ちなのでしょうか。

安達

現状、給与計算と勤怠管理の領域には手を出さないと決めています。というのも、この2つはすでに市場にたくさんの優秀なプロダクトが存在し、レッドオーシャンなので我々がプラスで提供できる価値が少ない。まだ効率化されていない領域を攻めていこうというのが我々の大きな方針です。
 
当社が掲げるコンセプトは「Employee First」、すなわち従業員の方々のためのサービスを創ることを強く意識しています。SmartHRは人事労務担当者のためのサービスだと思われがちですが、けっしてBtoBのプロダクトではなく、BtoBtoEのプロダクトとして新たな価値を生み出していきたいと考えています。

及川

SmartHRが提供する人事労務サービスは、企業の規模によってニーズが異なるように思います。スタートアップと大企業ではお客様の要望も異なり、大企業向けに最適化すると中小企業が使いにくいとか、全方位にアプローチしようとするとプロダクトがうまくいかないジレンマが生じがちです。そうした状況に御社はどう対応されているのでしょうか。

安達

まさにいまの当社のフェーズにおいて、プロダクト開発でいちばん難しいと感じているのがその点です。
 
当初、SmartHRはSMBが対象で、なかでもIT関連などインターネットツールを使い慣れている企業がターゲットでしたが、いまやお客様は飲食業や小売業にも広がり、さらに数万人を超える大企業にも導入されています。おっしゃる通り、それぞれニーズが大きく異なるのですが、いまのところ可能な限りワンプロダクトで事業を展開していく考えです。
 
最近、大企業向けの改修を次々と施していますが、それでSMBのお客様から使いにくくなったという声はいただいていません。大企業のお客様からは「基幹システムと連携させたい」というご要望がよく寄せられますが、そうしたエンタープライズが求める個別のカスタマイズに関しては、連携部分の開発をパートナー企業やお客様のシステム部門などに担当いただく方向で対応していこうと考えています。

社員全員がプロダクト視点を持つ、稀有なカルチャーが醸成された企業。

及川

いま御社ではPdMの方を何名抱えていらっしゃるのでしょうか。

安達

私の他に8名います。

及川

その8名でどのようにプロダクトの開発を分担されているのですか。

安達

SmartHR本体とプラスアプリで分けていて、本体を4名のチームで担当し、それ以外の4名はそれぞれひとつずつプラスアプリを受け持ち、プロダクトオーナーとして開発にあたっています。

及川

本体を担当する4名の方々は、どのような形で開発に関わっているのですか。

安達

4名のうち1名がプロダクトオーナーを務め、バックログの優先順位を管理することに責任を持っています。その他3名のPdMは、エピックレベルというか比較的大きい改修の塊ごとに担当を決めて機能の開発を担い、プロダクトオーナーが全体のバランスを見るというチームワークです。

及川

御社の場合、PdMがどこまで事業の収益責任を持つのでしょうか。

安達

既存のSmartHR本体と新規のプラスアプリでそれぞれ異なります。SmartHR本体に関してはビジネスサイドの活動によって売上が大きく変わるため、PdMが収益責任を負うことはなく、プロダクトの開発に集中しています。
 
プラスアプリの新規プロダクトについては、立ち上げ時にプロダクトがどのような機能を提供するかによって売上がダイレクトに変わるので、PdMも収益に責任を持つことになります。

及川

SmartHR本体の場合、PdMの成功指標はどこに置いているのですか。

安達

重視しているのは、どれだけアジリティ高くプロダクトを市場に提供できているかということです。現状、SmartHR本体は製品開発の方向性や顧客のニーズが比較的明確なので、課題の特定でバリューが出るというよりも、最優先の課題を見極めてタイムリーに提供していくことがPdMに求められています。
 
ですから、きちんとファシリテーションしてエンジニアやデザイナーを巻き込み、クオリティの高いプロダクトを迅速にお客様に届けられるかどうかを評価しています。

及川

PdMの人事評価は他の会社も悩まれています。いまお話しいただいた御社のPdMへの評価ですが、具体的にどのように行われているのでしょうか。

安達

周りのメンバーからの評判をもとにPdMを定性的に評価しています。その前提として、当社はプロダクトに対する目線が全社で揃っているんですね。
 
どのようなプロダクトが正しいのか、どのようなプロセスを踏むのが良いPdMなのか、言語化されてはいないものの全員が近しい考えを持っています。だから、周りからのPdMに対する評判がずれることなく、正当な評価に繋がっていると思っています。

及川

全員がプロダクトの視点を持っているのは素晴らしいですね。ともすればセールスサイドの人間は売ることを優先しがちで、プロダクトの本質的な価値を蔑ろにしがちですが、そういう風潮も御社にはないのですね。

安達

ええ。プロダクトの価値を最優先するのは当社の特徴的なカルチャーだと思います。そもそも当社の代表がWebディレクター出身で、モノづくり側の人間であることも大きく影響していると思いますね。
 
さらにそのカルチャーを維持するために、課題特定や要件定義のプロセスをすべてドキュメントにまとめて社内に公開しており、誰もが閲覧できる。なぜこのプロダクトが生み出されたのか、みながその背景を知ることができるのでビジネスサイドのメンバーも誤解の余地が少ない。ここまで社員全員がプロダクトに寄り添っている会社は珍しいのではないでしょうか。

チームの力を引き出して成果を上げる。そんなマインドセットが大切。

及川

PdMとエンジニアとの関わりについておうかがいします。御社の場合、PdMはどこまで開発の現場に入り込んでいるのですか。プロダクトを実現するための技術的な手段についてエンジニア側での議論もあると思いますが、そこにPdMはどのぐらい絡んでいくのでしょうか。

安達

当社においては、プロダクトの技術的な実現方法を考えるのはあくまでエンジニアの役割です。PdMはエンドユーザーの代弁者として、解決すべき課題とその目的をエンジニアに説いて、開発全体を正しい方向に導いていく。開発方法に関してPdMが判断することもありますが、テクニカルな部分にはそこまで深くタッチしていません。エンジニアのアサインもCTOが中心に行っています。

及川

先ほど、取り組むべき課題は経営陣と各部署の代表によって決定されるというお話でしたが、PdMはそのロードマップの策定にどう関与しているのでしょうか。

安達

当社ではロードマップ策定の議論がオープンになっていて、経営陣と各部署の代表による議論の場にPdMが全員参加して傍聴しています。
 
ですから、なぜこの機能を作るのかという意図や目的をそこで明確に把握でき、開発を担当することになった際、エンジニアやデザイナーに対してきちんと説明できる状態になっている。
 
また、会議で決まったものを必ずそのまま作るわけではなく、本当に妥当かどうかをPdMがお客様へのヒアリングを通して調査していきます。その意見がフィードバックされてまた議論に上り、定期的にロードマップを見直しています。

及川

プロダクトを市場に出すためのマーケティングもPdMと関係が深い領域ですが、御社には専門のマーケティング担当者がいらっしゃるのですか。

安達

社内にはマーケティングの部署を設けており、それとは別にPMM(プロダクト・マーケティング・マネージャー)もいます。

及川

PdMとPMMはどのように連携しているのでしょうか。

安達

簡単に言えば、「なにが売れるのか」「どう売るのか」を考えるのがPMMで、それを形にするのがPdMです。ひとつのプロダクトにPdMとPMMがセットでアサインされ、ビジネスサイドとのコミュニケーションはPMMが担っており、PdMはプロダクトを作ることに専念できる環境です。

及川

それでは、御社でPdMとして活躍するためには具体的にどのようなスキルやマインドが求められるのでしょうか。

安達

スキルセットに関しては、理想を言えばユーザーインタビューができて、システムの要件定義ができて、スクラムのプロダクトオーナーとして開発チームと協業することができ、さらにリリース前後で定量的な分析をしてプロダクトを改善できれば申し分ありません。
 
でも、入社時にそうしたスキルをすべて備えている必要はなく、当社で経験を積むなかで身につけていくことができます。事実、当社のPdMのなかには、かつて大手SIerで受託開発をしていた方やC向けプロダクトのPdMをしていた方など、入社するまでSaaSのPdMの経験がまったくなかった人材もいます。むしろ採用時に重視しているのはマインドセット。課題を解決することに燃える人であったり、チームをまとめて成果を出すことを志向する人を求めています。
 
当社では、PdMが強力なリーダーシップを発揮してチームを引っ張っていくのではなく、エンジニアやデザイナーと密にコミュニケーションして彼らの力を引き出し、いろんな意見を吸収しながらプロダクトを作り上げていくスタイル。そうしたカルチャーにフィットできるかどうかが、当社で活躍する上では大切ですね。

SmartHRだからこそ、経験できるプロダクトマネジメントがある。

及川

御社はPdMとしてのマインドセットを持つ人材を採用して育成しているとのことですが、成長を促すために会社として何か取り組んでいることはございますか。

安達

PdM間でのレビューを活発にやっています。PdMは基本的にそれぞれ独立して動いていますが、PRD(プロダクト要求仕様書)のレビューは複数名で行い、そこで鍛えられていく感じですね。
 
また、半期に一度ミッションを設定するのですが、プレイヤーとしての目標に加えてPdMチームへの組織貢献目標も設定してもらい、チームとしてプロダクト開発のプロセスを改善していく意識付けも行っています。

及川

では最後に、御社でPdMとしてキャリアを積む魅力をアピールしていただけますでしょうか。

安達

仕事のやりがいをどこに感じるかは人によって違うと思います。どれだけ社会にインパクトを与えるかという、仕事の意義にモチベーションを感じる人もいれば、どのような仲間とどのようなやり方で仕事をするかというプロセスに喜びを感じる人もいる。
 
その二面からお伝えすると、まず仕事の意義については、我々はホリゾンタルなSaaSを展開し、業種に関わらずどんな会社にもご利用いただけるプロダクトを手がけています。
 
SmartHRは、すべての企業のすべての従業員の方々を対象にしており、いわば日本の労働人口全体が顧客になりうる。ちょっとした改善であっても、そこから波及するインパクトはとても大きい。そんな体験ができるのは当社ならではの醍醐味だと思います。
 
また、プロセスに関して言えば、当社はプロダクト中心のカルチャーで、社員全員の目線が揃っている。ビジネスサイドとプロダクトサイドで垣根がなく、同じ目線でお客様にとって何がいちばん大切なのか、いま何をやるべきなのか、本質的な議論ができる。
 
PdMは得てして社内の根回しや調整に時間を取られがちですが、当社ではそこに労力を費やすことはまったくない。ビジネスサイドとのコミュニケーションはPMMに委ねることができますし、純粋にプロダクトを作ってお客様に価値を届けることに集中できます。

及川

お話をうかがっていると、御社は分業が進んだ合理的な体制のようにお見受けしますが、PdMを志向する方のなかには、マーケティングにもテクノロジーにもすべて関わっていくことが成長に繋がると考える人も多いようです。そうした方にとっては、御社のPdMは経験できることの幅が狭いと捉えられてしまうかもしれません。その点についてどうお考えでしょうか。

安達

そもそも当社は、分業することを良しとする文化の企業なんです。
 
例えば、以前はPdMがPMMの役割も担っていたのですが、ある時期からPMMがいたほうがいいよねという話になり、特に反対意見が出ることもなく自然に受け入れられていきました。ある意味オタク気質というか、自分の興味のある部分を深掘りして突き詰めたいという人が多いのかもしれないですね。
 
結果として、こうした体制を敷くことで事業のスピード感が増し、いっそうスケールしやすくなりました。それを踏まえて先ほどのご質問にお答えすると、PdMとして幅広い分野のことを自分でやりたいという方は、分業化されていない企業に身を置くのも良いと思います。
 
しかし一人で全部やると、プロダクト開発のスピードもなかなか上がらず、スケールもしない。自分の処理能力=事業の成長スピードになってしまう。私自身もゼロからのスタートアップでプロダクトを開発した経験がありますが、まさにそれを痛感しました。
 
もちろんキャリアの中でそうした経験をすることも価値があると思いますが、PdMは事業をスケールさせてプロダクトを多くの人に届けるためのスキルを身につけていく必要があります。そういう視点で考えると、当社のような体制でPdMのキャリアを積むのはとても有意義だと思いますね。

※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。

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